Valentine Kiss

(side 大石)






「この辺でいいかな?手塚」>


周りを見回して誰もいない事を確認して手塚に話しかける。

手塚は『あぁ』と立ち止った。


よし・・・じゃあ本題だな・・・ここまで来て一体どんな話なんだろう?


と思って待ち構える俺と裏腹に手塚は話し出さない。



「手塚?」

「あっあぁ・・・」



一体どうしたというんだろう?

何か困った事でも起こっているのか・・・

俺から聞き出した方がいいのかな?


あれこれ考えながら、手塚の出方を待っていたんだが・・・

なかなか話し出さない・・・

やっぱり、俺から聞き出そう・・・そう決めた時にやっと手塚が話し始めた。



「大石は・・・その・・・菊丸にチョコを渡すのか?」

「はっ?」

「いやだから・・・バレンタインの話なんだが・・・」

「えっ・・・バレンタイン?英二に?」

「あぁ」

「いや・・・渡たす予定というか渡した事もないけど・・・ってそれが何かあるのか?」

「いや・・・そうか・・・」



手塚はそのまま黙り込んでしまった。

俺が英二にチョコを渡していないと、何か問題でもあったのだろうか?

でもこんな事を聞くからには何か原因があると思うのだが・・・

手塚がこんな事を聞く原因は・・・1つしか・・ないよな・・・



「不二に・・何か言われたのか・・?」



不二の名前に手塚は顔を上げて俺を見た。



「あぁ」



手塚が悩んで俺に相談するような事を不二は言ったのか・・・

ちょっと怖いな・・・

だが、悩んでる手塚を前に何も聞かない訳にもいかないしな・・・



「何を言われたんだ」

「それが・・・」

「それが・・?」



『昨日の出来事なんだが・・・』とゆっくり話し出した手塚に俺も思わず力が入った。






「まさか手塚・・僕からだけチョコを貰おうなんて、思ってないよね?」



不二の家でテスト勉強をしようと誘われて、今の今まで和やかに集中してやっていたのに

少し休憩しようとお茶を飲みだした頃から雲行きが怪しい。



「どういう事だ?」



不二の言ってる意味がよくわからない・・・

他の人からのを受け取るな・・・ならわかるが・・

僕からだけ貰おうなんて・・という事は、他の人からのも受け取れって意味なのだろうか?

話の始まりは不二が俺にチョコレートをくれるという内容だったと思ったのだが・・・


頭を悩ませていると、不二がニッコリ微笑んだ。



「僕も男なんだけど」

「・・・・そんな事は言われなくても知っている」

「だから・・・僕も貰らえる権利があるんだよね・・・君から・・チョコ」

「俺から・・・チョコ?」



俺がチョコを渡すというのか・・?



「だってバレンタインは好きな男の人にチョコを送るんだよね」

「・・・・・・」



確かに世間一般ではそうなのかも知れないが・・・



「なら僕も含まれるよね?それとも僕を女の子扱いする気?」



まさか・・・不二は不二だ・・・

俺達がどんな関係になろうとそれは一生変わらない。



「いや俺はお前を女だと思った事は1度もない」

「じゃあ期待してるね。楽しみだなぁ〜〜」

「いや・・・それは・・・」

「じゃあテスト勉強再開しようか」

「あっ・・あぁ・・そうだな・・・」







『という事なんだ・・・』と話し終わると手塚は小さく溜息をついた。



う〜ん・・・これは嵌められたな・・・と今の話で半分はそう思う。

不二の事だから、手塚がどう出るか?という反応を楽しんでいる部分も大いにあるだろう

しかし・・・残りの半分は・・・その通りだ。

不二は男で・・・手塚と付き合ってるからといえど、それは変わらない。

ならば不二の言う『僕を女の子扱いする気?』という事は正当な事なんだ。

これは・・手塚じゃなくても・・・考えさせられるな・・・・

英二・・・

俺は今の今まで英二からチョコを貰う気ではいたが、渡すつもりは無かった。

それは去年も同じで・・・去年はバレンタイン自体忘れていたが、もし覚えていたとしても渡すという事は無かったと思う。

それはつまり・・・無意識に俺は英二を女の子扱いしていたという事なのだろうか・・・

この手で英二を抱いているから・・?

いや・・・そんなつもりはない・・・やっぱり英二は英二だ。

女の子がいいと思った事もないし、女だったら良かったと思った事も無い。

英二だから愛おしいし・・・英二だから肌を合わせたいと思う。

だけど英二は・・・英二はどう思っているかわからないけど・・・

ひょっとして女の子扱いされている・・・って思っているかも知れない・・・



「手塚・・・」

「何だ?」

「買いに行こう」

「何を?」

「チョコを買いに行こう。不二の言う事は正しいよ。

俺達は男だけど、不二や英二も男なんだから・・・貰ってばかりはいられない。

好きな男の人にチョコを渡す日なら、俺達も用意するべきなんだよ」

「そうか・・・やはり渡すべきなんだな」

「あぁ」

力強く返事して、俺達は次の日曜日に一緒にチョコを買いに行く約束をした。








が・・しかし・・・俺は大変な事を忘れていた。

今度の日曜は英二と約束していたんだった。

だが手塚もテスト前で行けるのは、今度の日曜だけだって言ってたし・・・

確かに今度の日曜を逃すと買いに行けそうにない・・・

参ったな・・・なんて言おうか・・・

散々悩んだけど、いい考えは思いつかなくて・・

でも断るなら早いほうがいいと俺は携帯の英二の番号を押した。



「あっもしもし・・・英二。俺だけど・・」

「大石。どうしたの?」

「それが今度の日曜なんだけど・・・」

「用事が出来た?」

「えっ?」

「当り?」

「あっうん。そうなんだ。よくわかったな」

「へへっ!英二くんはなんでもお見通しなんだよー」



楽しそうに言う英二に少し驚きながら、でも安心した。

怒ってないみたいだ。



「まっ仕方ないな・・・勉強は日曜じゃなくてもいいし、また教えてよ大石」

「あぁ必ずまた埋め合わせする」



そう言って少しテストの範囲の話をして、英二との電話を切った。

よし・・・これで日曜日は大丈夫だ。

後は手塚と二人でチョコを買いに行って・・・・

しかし不二の話を聞かなければ、思いもつかなかったなチョコを英二に送るなんて

これからはちゃんと考えなきゃな・・・

俺達は男同士でこれからも対等の付き合いをしていくのだから・・・
















そして日曜日

俺達は大手デパートの前で待ち合わせた。



「手塚!!やけに早いじゃないか!」



待ち合わせ場所近くに来ると、既に手塚が待っているのが見えて俺は駆け寄った。



「大石も予定より早いじゃないか、別に走って来なくても間に合っていたぞ」

「いやでも手塚が待っているのが見えたから・・・じゃあ早速入ろうか」



デパートにしたのは俺の母親がたまにデパ地下でケーキやドーナツを買って来るという話から、デパ地下ならチョコレートも色々売ってるんじゃないかって

話になったからだ。

確かにその考えは当っていた。

たくさんのチョコレート、流石バレンタイン前の事だけはある。

だが・・・この人混み・・・女の人の多さ・・・



「大石。この中から選ぶのか」



地下に降りたものの、俺も手塚も圧倒されて立ち止ってしまった。



「そうだな・・・選ばなきゃ買えないんだが・・・」



ショーケースの前は女の人で溢れていて、その後ろに立っている俺達はかなり浮いている。

それに人気があるらしい店は、既に長蛇の列

全く買える気がしない・・・



「大石・・・」



俺の名を呼ぶ手塚の顔にも困惑の色が出ていた。



「手塚・・・他をあたろうか・・・」



俺達はその場を離れて、違う店へと足を運んだ。



「ハァ・・・困ったな・・・」



結局手塚と二人、色々見て回ったが、何処の店も同じような感じで買えなかった。



「諦めるのか・・?」

「いや・・・そういう訳にはいかないだろ・・・」

「そうだな・・じゃあどうする?」



途方に暮れつつも、やっぱり諦める事は出来ない。

可愛い恋人の為、出来る事はしなければ・・・



「一度地元の方へ戻ってみるか・・」



手塚の肩を叩いて、歩き出そうとした時に聞き慣れた声に呼び止められた。



「大石に手塚・・・こんなとこで何をやっているんだ?」



振り向いた先には乾が立っていた。






「ほ〜〜成る程それは面白い。俺も仲間に入れてくれよ」



乾の登場で一旦俺達は休憩がてらに喫茶店に入った。


そこで乾に色々聞かれて事の成り行きを話したんだが・・・面白いって・・・



「別に仲間に入れるのは構わないが、今色々見て回ったがとても俺達が入り込めそうな雰囲気じゃなかったぞ」

「それはチョコを買うのが前提なのか?」



乾の問いに手塚と俺は顔を見合わせた。



「いや・・・そういう訳じゃないけど・・・」

「じゃあ作ればいい。こった物は無理でも板チョコを溶かして形に流すぐらいの物なら

俺達でも作れる。いいぞ手作りは、愛が篭ってるからな」



乾は眼鏡を直しながら言った。



あぁ・・・成る程・・そうか作るなんて考えなかったな・・・

確かに溶かして流すぐらいなら、俺達でも出来そうだ。



「どうする手塚?俺は乾の言うように、作ってみるのもいいんじゃないかと思うんだが」

「作る場所はどうするんだ?」

「場所なら俺の家を提供しよう。今日はちょうど誰もいないんだ」

「じゃあ決まりだな」



俺がそう言うと、手塚は『うむ』と頷き、乾は飲みかけのコーヒーを飲み干した。



「では早速、近くのスーパーで材料を買って、俺の家に行こうか」



乾の登場でこの後の行動は本当に早かった。

喫茶店を出て乾の家に行くまでのスーパーで材料とラッピング用品を買い、乾の家でチョコを作る。

作ると言っても喫茶店で話した通り、板チョコを湯銭してカップに流して少しトッピングをするぐらいの物だが、それでもそれぞれに個性は出ていた。


三人三様・・・作ってる時にお互い頭にあったのは、可愛い恋人の喜ぶ姿だったと思う。

それぞれの想いを詰め込んだチョコレート



英二・・・愛してるよ

去年英二が作ってくれたチョコケーキに比べたら、俺のは到底手作りとは言い難いけど・・・

たくさんの愛は流し込んでおいたから・・・





今回の大石視点は手塚視点の塚不二も混ざったり・・・してました。


大丈夫でした?わかりました?

という訳で・・・あと少しお付き合いを・・・

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